是枝監督と坂元裕二さんの脚本ということでカンヌ映画祭でも話題になり、最近日本映画をよく見ているので、映画館で怪物の予告を何度も見ていた(笑)私もこの映画の公開を楽しみにしていた一人です。
映画館の客席はほぼ埋まっていて、いつもの日本映画の入りと比べ物にならないほど賑わっていました。皆さん期待して、映画館に来ているようです。
映画『怪物』はこんな人にオススメ
- 現実とフィクションの境目が分かりづらいスリリングな物語展開が好きな人
- セリフが持つ意味をいろいろ推察したい人
- ラストの展開を想像しながら、前半パートも楽しもうとする人
その理由を説明していきます。
私が映画「怪物」の前評判で聞いていたのが以下でした。
- ストーリーの構造がいくつもある
- 最後ハッキリしなくてモヤモヤする
- 不可解な点は、それぞれの解釈でOK
この3点を参考に覚悟して(笑)、構造を理解しようとして見ていたのが良かったのか、それほど迷わなかったものの、不可解なシーンやセリフは幾つかありました。
この映画の伝えたかったことは、こんな感じかなと思います。
- 人は自分の信じたい情報だけを信じて見てしまうもの
- 信じた情報によってその人の世界は作られていく
日々、SNSやウェブニュースで情報を見ていますが、それも自分の好みの情報が集められていると言いますよね。だからあえて、知らない世界の情報も前のめりになって取っていかないと、狭い視野の世界の中で生きていくことになってしまう。そんなことも映画のメッセージとしてあるのかなと思いました。
- ちょっとした嘘やそのタイミングで人から受ける評価が変わってしまう
- 庇ったつもりで良かれと思ってやったことだけを切り取られ、人に評価されてしまう
人の評価など気にしなければ良い、というのは大人になって分かることだし、誰にでも起こることといえど、受け取られ方が変わり、信じてもらえない悲しさがあるのが、今の世の中なのだなと感じました。そう思うとすごく生きづらいと改めて感じます。
(以下ネタバレを含みます。)
映画『怪物』印象に残ったセリフ・シーン
「違いますよ」お母さん(安藤サクラさん)が先生に対して言うセリフ
学校に乗り込み、先生の説明を受けますが、違う、とはっきり言います。その言い方はボリュームは大きくないのに芯のある声で、心が入っていました。勇敢なお母さんだと感じました。
安藤サクラさんの日常生活を演じる自然さは今日本で一番すごいのではと感じます。そしてなにより、感情移入しやすいお顔なので、映画の前半パートは見ている人みんながこのお母さんの視野を信じて、物語を見進めてしまっている気がします。安藤さんの演技力ゆえに見るものを惑わす落とし穴かも!と感じました。
ちなみにお母さんの職業の設定がクリーニング店の店員だったので映画「万引き家族」と一緒だ!と思ってしまいました。
保利先生(瑛太さん)のセリフ「ごめん、麦野は悪くない」
瑛太さんの役がこの映画の中で一番、いろいろな解釈があるのではと感じました。
私の映画前半中の気持ちとしては「こいつ使えない先生かよ!」「恋人には強気なのか?」
と憤っていました。
でも後半部分になると、屋上へ半分裸足で行ってしまうような、気弱で変わっているけど悪い人ではないことが分かってきました。
分からなかったのが、保利先生の自宅のシーンで、金魚を水槽から取り出し、床に落としてしまうシーンは深い意味がありそうだけど、何を示唆しているのかな~?という感想をもちました。
校長先生(田中裕子さん)の不気味なセリフと演技
「実際はどうだったかは、どうでも良いんだよ」「あなたが学校を守るんだよ」
保利先生(瑛太さん)に向かって校長が言います。田中裕子さんの能面の顔と声はすごみがありました。
事なかれ主義になってしまった背景は後半で分かるのですが、学校側にそういう対応をされてしまうと、親はモンスターペアレントになることさえもできない。苦しい立場に立たされ、本当に困ってしまいますね。
二番目に良かったシーン 校長先生と湊のシーン
湊「ごめん。嘘をつきました。保利先生は悪くない」
校長「嘘言っちゃったか」
湊「好きな子がいるの」
校長「誰にも手に入るものを幸せって言うの」
ホルンとトロンボーンのシーンはそれぞれが持つ心のモヤモヤ、気遣うがゆえに言葉にできない生き辛さを音に乗せていました。
湊はお母さんに対し、親だから気を使っている、校長先生は旦那さんや子供に後ろめたいことがあるから気を使っている。
先生と児童の音の共演で、心が通い合っているように感じたシーンです。
一番良かったシーン、ラスト10分ぐらい
子供二人が「わー」「あー」と明るく大きな声を出しながら野原を駆け回るシーンは、生きづらい世の中だな、と思いつつも子供同士は分かりあえている世界があると思うとすごく救われて、そこまでにあったモヤモヤが晴れていくような気分になりました。
その時に流れる音楽がまたピッタリで、青空のもと、晴れ渡るようなやさしさのあるメロディーを聴きながら、場面展開のすばらしさに鳥肌が立っていました。
私の解釈としては、子供たちは怪物ではなかったんだな、とここで感じることができました。
映画『怪物』感想まとめ
私の総合評価は星3.5でした。
前半は、苦しい、後半もだけど。
ちょっとした嘘で見方が変わって行ってしまう世界が苦しい、親に気を使う子供も苦しい。
結局何が怪物なのかは私には分かりませんでした。
ちょっとモヤモヤするシーンがありますが、最後に青空が晴れ渡る中で、湊と依里が仲良く走り回るシーンは二人の世界が輝いていて、美しかった大好きなシーンです。これがあったからこそ、この映画を見て良かったと思えました。
これから見る方には、最初から最後まで緊張感をもって見ることをお勧めします。